絵本『さくらいろのりゅう』(アリス館)が
発売されました。
長い道のりだった・・・
2011年、アリス館の編集Yさんのところへ
作品の持ち込みに行ったのは
震災の一ヶ月ほど前のことだった。
このころ、
本当になんにも仕事がなくて
いろんな人にお願いして
編集のかたを紹介していただき
持ち込みにまわっていたのだった。
東日本大震災がおきた翌月ぐらいに
岩崎書店のHさんのところへ持ち込みにいき、
運良く『いるの いないの』を描かせて頂き、
2012年に出版された。
『いるの いないの』が話題になったので、
「これでどんどん仕事がくるね!」
なんていうまわりからの言葉とはうらはらに
新たな仕事依頼はまったくこなかった。
また何も仕事のない日が続いていた。
そんな時
Yさんからメールが届いた。
『いるの いないの』を送ったことに対する
お礼のメールだった。
Yさんは、その時産休中とのことだった。
「職場復帰予定はまだ先なのだけど
打ち合わせなどは出来るので、
会ってお話しませんか?」
2012年4月、水道橋駅前のカフェで
Yさんにお会いした。
「絵本」は描いてみたいかもしれないけれど(まだ曖昧)、
でもお話は書けないし、書きたくもない」
と持ち込みの時にわたしが言っていたのを
覚えていて下さったYさんは、
「お話を書くことは一旦置いておきましょう」
「テーマみたいなものをひとつ決めて
そこからイメージした絵を何枚か描いてみましょう」
「何枚か絵がたまったところで
どなたかに文章を書いてもらうことも出来ますよ」
たしか、そのようなことを言われた気がする。
絵ならいくらでも描ける。
テーマは「夜」(「夜にやりたいこと」だったっけかな…)
二ヶ月後ぐらいに会う約束をして、
その時までに絵を一枚描いて来る。
それを何度か繰り返した。
途中、個展があったり、
絵本『おばけにょうぼう』の制作に没頭したり、
「夜」の絵を描けない時期もしばらくあった。
「夜」をテーマにした絵は、結局3枚だけ描いた。
3枚目の絵を描き終えた時に
「あぁ、これではダメだ」と思った。
一枚づつの絵が完結しすぎていて
流れのある物語を受け付けない。
このまま描き続けていっても
「夜」というタイトルの個展は出来そうだけど
絵本は出来ないだろう・・・。
そのことをYさんに伝えた。
暗礁に乗り上げる、とは
こういうことを言うのだろうか。
さて、どうするか。
時は既に2013年になっていて、
Yさんの産休はとっくにあけ、
お仕事復帰されていた。
「このまま止めてしまうのはいやです」
とYさんが言ってくださり、
また会ってお話することにした。
どういう話しの流れだったか忘れたけれど、
「龍の女の子のお話が描きたいです」
とわたしが言った。
龍モデルを紙粘土で作りました
2012年の12月にギャラリーエフで聞いた
篠笛奏者のことさんの演奏がきっかけだった。
ことさんのアルバムタイトルは「龍の目醒め」。
ミュージックビデオの中のことさんは
赤い龍をイメージしたドレスを着ていた。
まるで龍の化身の少女のよう・・・。
「龍の女の子」は描きたいけれど、
どうやって物語にしたらいいかわからない。
みんな、どうやって文章を書いているのだろう…。
その時、Yさんが、
某絵本作家の方がおっしゃった言葉を教えて下さった。
ある日Yさんが、
次々と魔法のようにお話をうみだす某先生に
「こんなにたくさんのお話、どうやって考えてるのですか?」
と聞いたそうだ。
するとその先生は
「ギュって考えてる」
と答えた、というのだ。
なぜか、
なぜだか、
その時に
「あぁ、そうか!ギュッと考えればいいんだ!」
と目からウロコが落ちた。
すごい秘密を教えてもらったような気持ちだった。
「一日数分でも構わないから
毎日必ず “龍の女の子” について考えてください」
とYさんからアドバイスをいただいた。
なにかしながらチョロっと考えるのではなく、
その時はそのことだけを、
そう、それこそ「ギュッ」と考える。
次の日からさっそく実践した。
「龍の女の子」専用のクロッキー帳をつくった。
毎朝、ご飯を食べたあと、
窓辺のベッドで寝る白木(猫)の側に座って
クロッキー帳と鉛筆を握りしめて
ギュッと考えた。
ギュッと。
ギュッと。
やがて、
「龍の女の子」がどんどん変化していき、
「龍と女の子」の物語が見えて来た。
まだ全然モヤのむこうにある
ぼんやりした「龍と女の子のはなし」を
口頭でYさんに聞いてもらった。
「いいと思います」
今思うと、全然良くなかったと思うけれど、
ともかく、
そこから「さくらいろのりゅう」はスタートした。
次にYさんとお会いする時までに、
口頭で話しためちゃくちゃの話を
なんとか文章にまとめていった。
全然「絵本」を意識していない
ダラダラした長い文章だった。
文章を提出しては直し・・・・
それはそれは何回も繰り返した。
そのたびに話はどんどん変化していった。
「そろそろラフを描いてみましょうか」
と言われるところまでやっとたどり着き、
まだまだ危うういテキストを元に
ラフを描いた。
そのラフを見たYさんが言った。
「絵はいいですね」
「でもこの絵とこの話(文章)は合わない」
うぅ・・・
今度はこのラフをみながら
新しくお話(文体)を考えていったらどうか?
ということになった。
そこからがまた長かったように思う。
話が行き詰まったり、
ラフ(絵)が行き詰まったり。
どこかでモーゼの十戒みたいに
海が割れて道が開けたなんてことはなくて、
なんだかんだと
転んだり挫けたり匍匐前進したりしながら
「これで本番を描いてみましょう」
となったのじゃなかったか・・・。
実際、本番を描き始めてからも、
もたもたするページ展開が発覚したり、
テキストを変えることで
せっかく描いた絵がボツになったり、
もう一生終わらないんじゃなかろうか…
と思うこともあったようななかったような・・・。
(いえ、ありました・・・)
おかげさまで完成しました。
ホッ。
デザインは、
『ドラゴンキーパー』(金の星社)と
『おばけにょうぼう』(イースト・プレス)の
デザインをやっていただいた椎名麻美さん。
これを言うとまた
「そんなとこ?!」と言われそうだけど、
わたしは椎名さんの「色校正」を信頼してます。
今回も良い色に仕上がりました。
そして、
長く長く長〜くお付き合い(ご指導)くださった
Yさんに感謝感謝。
あの時生まれたばかりのお子様は
もう3歳6ヶ月・・・。
時がたつのは早いですな・・・。
そんなわけで
『さくらいろのりゅう』、
無事に発売されてます。
これと言った話題性もなく、
とっても地味な絵本ですけれど、
どこかで目にすることがあったら
読んでみてください。
宜しくお願い致します。
【関連する記事】